2021-10-12

今デルタ株の感染力が急激に衰え、一時コロナは収まったと都合の良い方に解釈して緩和策を進める動きが政府の方から出てきています。

デルタ株の感染力があまりにも強くまた速度も異常に高かった事から、弱毒化・感染力の衰えが始まったという説があります。これはゲノムのコピーミスが原因ともいわれております。

更に季節要因による変化 が起きているのだと云う説もあります。

両者ともに一面的な見方で、おそらくそんな単純なものではなく人間の行動変容も伴った複合的な要因だと思われます。そして「感染予測システム」の開発が必須です。

これを読み解くためにある専門家の次のような発言をとり上げたいと思います。
「デルタ株の感染は季節によって変化する。つまり温度の変化、湿度の変化が影響すると考えられる」。

ここで湿度の変化をとり上げている点は確かにその通りだと思います。しかし云い足りなさを残念に思います。「湿度の影響は具体的には飛沫感染か空気感染かに影響を与えるのです。空気感染はエアロゾル感染と言い換えても結構です。接触感染・飛沫感染と比べ物にならないほど空気感染の感染力は強いのです。当然この感染力は湿度によって大きく変化することは容易に想像できるはずです」これを付け加えないと説得力は半減するでしょう。

与党の政治家やそれに追従する専門家たちが最も忌み嫌うのが「空気伝染」と云うワードです。湿度との関係であれば0.3µmの粒子ならエアロゾルと云っても構いません。彼らにとっては「空気伝染」と云うワードは大変都合が悪く、どうしても排除したくなる気持ちは分かります。しかし、欧米では「空気伝染」は有名な科学雑誌の論文にも出てくる当たり前のワードなのです。

まず以上の情報を抑えたうえで、もっと重要な科学的見解に触れなければなりません。
それは「強力な変異株は感染が広がると、ある時点で弱毒化・感染力の衰えが始まる」いう説で、これはゲノムのコピーミスが原因だと云われます。冒頭の図をご覧ください。

この説の根拠はノーベル賞受賞者のマンフレート・アイゲン氏が唱える「ウイルスの自壊メカニズム・エラーカタストロフ」にあります。これをもとに東京大学先端技術研の児玉龍彦名誉教授が書いた図が冒頭の図です。

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私は先にご紹介した「日本再生のためのプランB」の著者・兪 炳匡のコロナに特化した末尾の動画に注目しました。

兪 炳匡(ゆう へいきょう)医師、神奈川県立保健福祉大学イノベーション政策研究センター教授。1967年大阪府生まれ。93年北海道大学医学部卒業。93年~95年国立大阪病院で臨床研修。97年ハーバード大学修士課程修了。(医療政策・管理学)。2002年ジョンズ・ホプキンス大学博士課程修了(PhD・医療経済学)。スタンフォード大学医療政策センター研究員、米国疾病・管理予防センター(CDC)エコノミスト、カリフォルニア大学デービス校准教授などを経て20年より現職。著書に『日本再生のための「プランB」 医療経済学による所得倍増計画』、『「改革」のための医療経済学』など。

同氏は「感染予測モデル」の研究開発の専門家です。予測モデルは全米で20もあります。日本には京都大学の西浦教授の予測がただ一つの政府が頼るモデルです。

兪 炳匡先生は少なくとも日本列島は長いので主要都市別にこの予測モデルが必要でアメリカの20程度は必要ではないかと云っておられます。肝心な予測モデルさえ世界水準からはるかに遅れていることを嘆いておられます。但し前回に申し上げた世界規模のモデルが巨大データーベースの完成を待って完成し万能ワクチンが出来るまでの話です。

また、地域別予測システムは世界規模の巨大データーベースの構築にも役立つものです。
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もう一つ日本が世界水準から遅れている問題はPCR検査です。PCR検査の拡充は以前考えられていた目的とは全く次元の異なる新たな目的への対応が迫られているのです。

デルタ株のゲノムのコピーミスによる弱体化の後に現れる新株は前の株(デルタ株)そのものではありません。「デルタ株プラス」かまたは全く新しい変異株です。

それは何を意味するかといえば、このままでは新株には対応できなくなると云う事です。

PCR検査を充実・拡大することによって新株をつかみこむことによって、はじめて予測できるようになるのです。
政府委員の岡部氏は未だに抗原検査を推奨しています。これこそ世界水準から大きくずれている証左です。英国では一日に100万人の検査能力を維持しております。

岡部氏は検査の費用を抑えることを主目的としてそれによって検査能力を拡充しようとしています。ところがこれでは検査の精度と特異度が分からないのです。

PCR検査は図のように精度と特異度が正確につかめ、そのコストも明確になるのです。目的に収まる範囲のコストはPCR検査検査で5000円/件を実現しております。コスト面でも抗原検査に拘る理由は見当たりません。

日本のコロナ対策の後進性はすべて国際比較をすれば明確になるのです。

コロナ対策ばかりでなくあらゆる国際比較から日本の政治・経済の遅れが証明されるのです。与野党ともに現実を見るべきです。

ワクチンの接種率、治療薬の開発状況などもこのテーマには必要な情報ですが、それは過去の投稿で紹介しておりますので参照してください。

最後に100万人当たり死者数が米国やインド大阪が多かった時期があると云う驚くべきデーターを載せておきます。

8年間の強権政治が如何に国力を落としてきたか、米国式のプランAでは日本は救われません。プランBとは何か、次回は兪 炳匡教授の真剣な提言に耳を傾け、再度プランBの紹介をしたいと思います。

下の動画には多くの世界比較データーが記載され詳細な解説と日本の医療がいかに遅れているかを明らかにしている。

 


「新型コロナワクチンとウイルス変異株」と云う本を見つけました。遺伝学者の著作と云うことで、ネット上では、根拠のないフェイクニュースが溢れる中で、きちんと裏付けのある資料を元にしての"新型コロナワクチン"そして"新型コロナウイルス"に関する説明に触れることができ、新しい知識が得られ、まさにこの時期だからこそ読みたい内容でした。

研究者の視点で、一般人には多少難解な部分もありますが、平易な語り口で、頭にスッと入ってきました。不安が解消され、これからどうなるかが多少なりとも明らかになったことが何よりの収穫でした。自己防衛には必須の情報がたくさん盛りこまれています。

新型コロナ、ウイルス変異、現在のワクチン、ユニバーサルワクチン、治療薬、パンデミックの終息などの道がみえる、わかりやすい本です。
以下、大事な情報のみをピックアップします。(このまとめは書評の一部に掲載されたまとめからの転載です)

1.メッセンジャーRNAとは何か。

mRNA(メッセンジャーRNA)を取り込み、体内の細胞のなかで病原体のたんぱく質をつくらせ、免疫機能を活性化させる仕組みだ。
mRNAの開発はに20-30年かかっている。実用化の最後の段階で新型コロナが来襲したため、臨床試験の最終試験期間を短縮し、生産体制を同時にすすめて2020年の摂取に間に合わせた。
mRNAはタンパク質になるDNA情報だけを転写し、運搬し、特定のアミノ酸をつくる。(DNA自体の操作ではないから遺伝子組み換えではない)
抗体は可変領域と定常領域が組み合わさって多様性が確保されている。このDNAの再構成のメカニズムを発見したのが利根川進、定常領域のわずかな変化のメカニズムを解明したのが本庶佑だ。

2.新型コロナの実体。

免疫機能が薄れないように、抗体が怠けないように、2回摂取する。抗体が緊張するので副作用が強くなることがある。
人口の50%が免疫を持てば集団免疫となり、壁ができて、感染者は劇的に減る。
感染経路の最多は「飛沫」。通気性の良い環境が不可欠。季節変動にはあまり関係はない。重症化率は50代が境目。
中国武漢の研究所で飼われていたコウモリから感染し広がった可能性あり。

3.今後の展望。

ウイルス同士の競争、ウイルスとワクチン開発による人間との激しい生存競争。
新型コロナウイルスの1年間の変異は25回程度。エイズよりは少ないが、人間のゲノムの変異よりも10万倍以上の速い変異。ワクチンの効果は3-5年しかもたない。毎年打つ必要はないが、数年から5年でワクチン接種が必要か。
変異対応のユニバーサルワクチン(ゲノム解読し、変異の場所や組み合わせを想定し、仕立てていくワクチン)は原理的には可能だ。
日本では「統合データベースの構築と解析プロジェクト」が始動。(8月22日の日経新聞1面に記事が載っていた)
ゲノム解析とゲノムレベルで突然変異をリアルタイムでモニタリングを可能とする「バイオインフォマティックス」(生命情報学)のグローバルネットワークの構築が急務。(気象予報のように予測できるようになる)
今後はユニバ―サルワクチンの開発、その後は増殖阻害剤(治療薬)の研究開発へ焦点が移っていく。
東南アジア、アフリカ諸国での感染対策が成功しないかぎり、このパンデミックは終息しない。


以上の内容で私が一番重視したのは「今後の展望」です。変異株の将来がどうなるかについては、強い関心を持たざるを得ません。
「人間のゲノムの変異よりも10万倍以上の速い変異。ワクチンの効果は3-5年しかもたない。毎年打つ必要はないが、数年から5年でワクチン接種が必要か」と云う部分に特に注目しました。

最近のニューヨークからの情報によれば「接種後感染次々-米困った」の見出しが気かかりです。米国で新型コロナウイルスワクチン接種後に陽性になる「ブレークスルー感染」が社会活動の正常化にブレーキをかけています。ブロードウエーでの大規模ブレークスルー感染、ボストン郊外のハーバート大学学生の感染急増、同大学では学生や教職員の95%がワクチン接種完了しております。

このブレークスルー感染は人間のゲノムの変異よりも10万倍以上の速い変異に起因するものと思われます。人間のゲノム変異は長い時間をかけて種の多様化をもたらすものです。人間のゲノムがすべてクローンであれば多様性を維持できず、また環境に適応できず絶滅してしまうのです。それに比べてコロナウイルスの変異の速さはコロナウイルスが独自の細胞を持たず動物の細胞に寄生してしか増殖できない性質を反映しているものと思われます。

この本では変異種と変異株をはっきり分けて考えております。変異種は交配によって子孫を増やし、変異株は自らの力では増殖できないので変異のスピードを上げざるを得ません。これが自然の法則と云えるのでしょう。

厄介なことに、デルタ株は「二重変異株」と云われ、スパイクタンパク質のE484QとL452Rの2つの変異が重なっているためワクチンの有効性が低下すると記されています。

それでは、いかなる変異に対しても対応できるワクチン(ユニバーサルワクチンと称する)は出来るのかと云う疑問が生まれます。理論的には可能だと筆者は説明しております。ただしそのためにはmRNAワクチンであってもゲノムをすべて解読する必要があると云われます。

そのうえで将来の変異を予測するには、変異の場所や組み合わせを調べるための膨大なゲノム情報のデーターベースを構築することが必要となります。ワクチンの接種率を飛躍的にあげる努力は集団免疫獲得の為ばかりでなく、膨大なゲノム情報のデーターベースを構築するためにも必要だと書かれております。

現在世界で一番使われているゲノム情報データーベースは、ドイツの「GISAID」と云うデーターベースです。著者のグループはこのデーターベースの使用契約を結び、毎晩ダウンロードして計算した結果を「変異追跡システム」に反映して限定的ではあるがある程度の予測ができる段階までたどり着いております。

日本では、国立医療研究センターと国立感染症が共同でREBINDと云うデーターベースの構築を進めております。
また、WHOは世界規模のデーターベースを作るためにも役立つ、発展途上国も含めた調査資料を集めているのです。

このように、ユニバーサルワクチンに至る道筋はまだまだ先の話となりますが、道は開かれつつあります。従って当面は予防薬(ウイルス増殖阻止剤)の開発に頼るしかありません。対症療法的治療薬でなく、特効的に有効な増殖阻止剤の開発の成功は新型コロナウイルスの制圧にとって、今後のカギになってくるでしょう。

以上述べた課題は関係する専門分野が多岐にわたるため、限られた専門家の研究だけでは突破できないのです。深く広い知識が求められ、目的を絞ったうえでなければ議論がばらけてしまいます。コロナ対策を個人の自己防衛に限定した場合、目的意識さえしっかり持てば役に立つ情報は十分得られるのではないかと云うのがこの投稿の結論です。

ところでこの冬の第6波が気になりますよねー。今感染が減っているのは季節要因なのか自壊なのかが問題です。この本を読んだ結果私は自壊だと確心したのです。なぜかと云えば感染力の強い株はコピーミスのチャンスも大きいのです。コピーミスは弱毒化にもなり、反面より強力な新株を生む可能性もあるのです。

弱毒化は新株を生むプロセスよりスピードが速いことは容易に想像できます。感染力が強いほどコピーミスも激しいと考えれば、第6波についてその時期と規模の予測がつくでしょう。

モリヌピラビル、AT527、3CLブリピアーゼ等、複製阻害治療薬が出てきていることも今後の新型コロナウイルスの行く末を占う重要な要件です。でもこれは第6波の後の話です。