TBS News

7月16日の参院予算委員会(閉会中審査)に、野党側の参考人として、東大先端科学技術研究センターの児玉龍彦教授が出席。

 新型コロナウィルス感染拡大の問題に関して、「東京のエピセンター化している」「総力で対策を打たないと、来週は大変になる。来月は目を覆うようなことになる」と声を震わせながら、訴えました。

 児玉教授は、科学的な見地から分析しており、多数の資料を示しながら説明。具体的な対策も提言しています。
 
注)
エピセンターは英語(epicenter)で「震央」という意味、新型コロナウイルスに関しては「震源地、発生源」と云う意味。

今回の提言で特に注意するべきは、エピセンターの示す意味は全く新しい科学的見解であることです。2つの重要な問題提起が含まれているのです。

第一に、新種が発生したと云う見解です。これについては以下の資料をご覧いただけば分かりますが、児玉先生の研究成果で精密抗体検査(量的質的遺伝子解析・従来のノイズを拾い定性分析しか出来ない粗悪な検査キットを全否定した上で)によって分かってきた裏付けをもって結論付けられたものです。
元来新型インフルエンザに至る数々のコロナウイルスの解析結果から今回の新型コロナウイルスはもともと非常に変種・変異を生みやすい性質を持っているのです。既に武漢型と欧米型がありその中でもいくつかの変種が発見されている世界の傾向から、これが日本に入ってきた場合、容易に変種が発生することは理解できるはずです。
ウィルスが変異するとワクチンの副作用が増強される場合(ADE)がありワクチンは数年かかる。

注)Antiboy Dependent Enhancementとは、「 抗体依存性感染増強」で、抗ウイルス抗体の存在によりウイルス感染が増強される現象

第二に、東京エピセンターで発生したコロナウイルスの性質が非常に悪質であることです。感染力が強く、空気伝染に近いエアロゾル感染の傾向が認められるのです。WHOにも各国の感染症専門家から空気伝染の報告があり、現在確認中であると報告されております。児玉先生は空気伝染とは断定していませんが。それに近いエアロゾル感染だと云う表現をとられております。WHOに報告されたものでは乾燥下で10Mは飛散すると云われいますが、エアロゾルの範疇であれば飛散距離は5M程度ではないかと考えられます。
それでも従来のソーシャルディスタンス2Mでは全く防護出来ないでょう。特にこれから気温が上がると冷房環境で多少窓を短時間開けただけでは不十分だと云うことになります。自粛だけに頼る姿勢は許されず、根本対策としては徹底した検査の拡充しかないでしょう。

児玉教授が国会に提出した資料、https://www.ric.u-tokyo.ac.jp/topics/2020/ig-20200716_1.pdf
国会中継の動画、https://www.youtube.com/watch?v=tJlLAJ2p9VE 

Twitterでの反応を一部ご紹介しておきます。

Aさん:児玉先生はエピセンターを持ち出し震えるお声で政府とコロナ分科会に警鐘を鳴らした。感染が増大する東京。新宿は既に陽性率30%。こんな時ウイルスが強毒性に変異する事が多いそう。強毒化したウイルスが東京を震源として全国に拡散。その震源地がエピセンター。政府は児玉氏の警告に耳を傾けるべき。

Yさん:児玉教授、国会で涙の訴え。7月16日午後。
「・・・総力を挙げ、責任者を明確にし、前向きの対策を直ちに始める。そうしないと、今日の勢いで行ったら、来週は大変になります。来月は目を覆うようなことになります。・・・この対策は・・・日本ならば、必ずできます。」

児玉教授の国会証言はネット上や新聞雑誌でも急に大きな話題となっております。いよいよコロナ禍は感染症問題や経済問題の域を超え政治問題に発展したと云えます。最近「マ」や「旅」の問題で失策続きの今の政権ではどうも解決できそうでないと云う雰囲気が広がっており、野党もやっとこの事の重大性に気づいたのではないかと思われます。


更に、異色のコメントが厚生労働省クラスター班のメンバーである北海道大学大学院の西浦博教授から発せられました。

これまで厚労省の感染症対策に関係してきたが、日本中の病院から患者があふれるようなウイルスは想定したことがなかった。厚労省は「これくらい病床が必要になるので用意してください」と都道府県に通知する立場だが、「対応しきれないくらいの感染者数が想定されますが、あなたの県では何をしても病床が足りないでしょう」と言うのは、地方公共団体に行動を促すための通知として意味をなさない。だから、病院からあふれるほどのウイルスは暗に想定しないようにしていた。
過去10年来の新型インフルエンザの議論でも「致死率が高く、かつ人集団の間での感染が起きるものを想定すべき」と話していたのは、東京大学の河岡義裕教授と東北大学の押谷仁教授の2人くらいだ。先生方がそうした話をされたとき、厚労省の事務方がとても嫌な顔をされていたことを覚えている。

やっと河岡義裕教授の存在に気付いたかと思ったが、そのあとがまずかった。検査が拡大しない理由をくどくどと述べ、推進に不熱心だった専門家たちの立場を擁護するような発言があったのでがっかりさせられました。また専門家が素人より手持ちの情報が少ない。そして気づきが遅いことなど、更にがっかりさせられた次第です。

でも遅ればせながら気づいてくれたことは良いことです。今後に期待しましょう。


東洋経済OnLineに掲載された荻原和樹氏の記事をご紹介しておきます

新型コロナウイルス感染症の「第2波」と呼ぶべき感染の再拡大が足元で続いている。東京都では7月12日の新規感染者(陽性者)が206名に上り、4日連続で200人を超える水準が続いている。

一方で、TwitterなどのSNS上では新型コロナの危険性を軽視する風潮が一部に見られる。個人批判が目的ではないので個別に挙げることは避けるが、「コロナはただの風邪」あるいは「コロナは茶番」といったフレーズを多用し、新型コロナへの注意を呼びかける専門家、著名人、あるいはマスメディアを批判することが多いようだ。

彼らの論拠には「陽性者数が増えているのは単に検査数が増えているから」「重症者や死亡者は増えていない」「罹患しても若者の死亡率は低い」などがある。しかし、いずれの説も新型コロナに関するデータの特性や注意事項を把握しているとは言い難い。ひとつずつ検証していこう。

<中略>

そもそも厚生労働省の定義では、重症とはICU(集中治療室)への入室や人工呼吸器の装着を指す。何らかの処置を行わないと死に至る危険性が高い状態という意味であり、一般に想像されるイメージとは異なることに注意が必要だ。

また、重症でなくとも後遺症が残る懸念もある。イタリアやオランダでは、軽症であっても肺にダメージが残る可能性があるとの報告もなされている。厚生労働省も、新型コロナウイルスから回復した患者を対象に後遺症の実態調査に乗り出すことを7月10日に発表した。

加えて、新型コロナは医療従事者への感染リスクを含め、受け入れる病院のリソースに大きな負担をかける。新型コロナだけでなく、平時であれば適切に対処できたであろう怪我や病気への対応に影響を与えるおそれもある。

新型コロナは、たしかに不治の病でも致死率が著しく高い病気でもないかもしれない。しかしそれは「かかっても平気」というわけではなく、ましてや「コロナはただの風邪」などと見くびるべきではない。


最後に緊急提言・エピセンター新宿を制圧せよ~まずは30万人PCR検査から【新型コロナと闘う 児玉龍彦×金子勝】20200717動画をご覧ください。

ウィルスが変異するとワクチンの副作用が増強される場合(ADE前出・注)がありワクチンは数年かかる。

河岡教授・研究室にて

ウイルス研究者の特性に興味を持ったのは、東京大学医科学研究所の研究員の仕事ぶりを知ったことからでした。河岡義裕教授を中心としたチームワークは独特のものでした。相反する特性を併せ持つ柔軟性はどこから出てくるのだろう?と疑問を持ちました。そこで河岡教授の著作を2冊手に入れて読み始めたのです。後で述べますが、医科学研究所の初期のお話なので、規模が飛躍的に拡大した現在の東京大学医科学研究所全体にこの伝統が受け継がれているかは分かりません。

それは、科学者の書いたものと云うイメージではなく、一つの物語と云った方が適切でした。まず、書き出しは教授が米ウイスコンシン大学の研究室で研究していた時から始まります。

突然、見知らぬ女性から電話があり、河岡義裕教授の論文についての質問のようでした。その女性は直ちにラボを訪れました。名刺から判断するとどうやらCIAのエージェントのようでした。ここ一か月以内に会った人は?とか、交友関係などいろいろ質問してきたのです。これらは、バイオテロに対する警戒だったのです。

ウイルス研究者の前歴は多様で獣医師から情報科学まで、様々な経歴をもつ者の集まりでした。
柔軟性の源泉はこればかりではありません。熾烈な特許競争、世界を股にかけた感染元の現場調査、これには現地人との友好関係を築くことから始めなければいけないこと、等々。このような環境で「専門家バカ」が生まれるわけがないんです。

アフリカまでエボラ出血熱沈静化後の血液採取に出かけたとき、現地人の踊りの輪に入り、飲食を共にして友好関係を深めた様子など、ラボの研究者には珍しい体験が報告されています。

科学の知識を多様な物語の中から読み取るには全文を何度も読み返すしかありません。従って極力正確な科学知識をつかみ取ってお伝えするには多くの時間を費やしました。それでもこの報告は物語風となってしまいました。


2009年4月24日、米国疾病予防管理センター(CDC)から、東京大学医科学研究所に届いた。荷物は、河岡義裕教授が依頼したものだった。その内容は、メキシコで流行した新型インフルエンザの原因ウイルスらしい。

研究所では早速適切なチームが編成され、役割分担が決められた。仕事の内容は、まずウイルスの増殖を行うことがすべての前提だった。それも一刻の猶予もなく大至急やることが求められていた。研究所内の最適な役割分担が定められ、動物実験による治療薬の検証に至るまでの作業の手順が決められた。新型インフルエンザはウイルスの遺伝子配列の分析結果から、豚インフルエンザ、鳥インフルエンザ、ヒトのA香港型のウイルスが混合した厄介なウイルスであることが分かっていた。

BSL3実験室での作業はウイルスの増殖から始まり、増殖が成功すると早速、協力先の大学研究室へ送られた。協力先では主として動物実験が行なわれた。奇跡的に約2ケ月ですべての作業工程が終わり、結論としてこの新形インフルエンザウイルスにはタミフルが効くことが分かった。そして、論文を米科学雑誌「サイエンス」に発表した。7月6日には論文アセプト(受理)の通知を受けた。

この研究結果の基礎となったのは、同研究所で開発されたインフルエンザウイルスの「リバース・ジェネティスク法」(1999年5月27日論文査読通過)であった。この技術はインフルエンザウイルスを人工的に合成することができる画期的技術だった。

注)「RNAウイルスのリバースジェネティクス法」は、プラスミドにクローン化したウイルスゲノム由来のcDNAなどを培養細胞に導入することで感染性の組換えウイルスを人工的に合成する技術です。この技術により、ウイルス遺伝子を任意に改変することが可能となり、ウイルス学研究の発展に大きく寄与してきました。

リバース・ジェネティスク法は世界の感染症研究に使われ創薬やワクチン開発には必須ツールとなっている。

目立った応用例ではシベリアの永久凍土から発見されたスペイン風邪に罹ったことのある女性の遺体から採取された遺伝子を抽出し、インフルエンザウイルスの塩基配列も決定することに成功したと云うニュースが河岡教授の耳に入ってきた。これが80年の年月を経て、ようやく判明したスペイン風邪の正体だった。

その後スペイン風邪の塩基配列決定に成功したタウエンバーガー博士のグループは、他の遺伝子についてもシークエンス解析を進め2005年までに八つのすべてのウイルスゲノムRNAの遺伝子配列を決定した。

2006年、河岡研究所は、スペイン風邪ウイルスの人工合成プロジェクトをスタートさせた。河岡義裕教授はリバース・ジェネティスク法を使って、この現代にスペイン風邪ウイルスを蘇らせることができると確信を持っていた。

普通のBSL3ラボではスペイン風邪ウイルスは扱えないので、カナダのハインツ・フェルドマン博士の研究室に行って、同研究室のBSL4施設でスペイン風邪ウイルスの実験を行った。こうして、スペイン風邪のウイルスを人工合成に成功した。

開発から約10年後から、世界中のインフルエンザ研究室でリバース・ジェネティクス法が用いられている。


以上は 伝染病研究所が医科学研究所に改組された医科学研究所の創業期をご紹介したもので、現在では大規模化し海外拠点も含め1000名規模となっております。ヒトゲノム解析センターには、生命科学に特化した大規模演算性能をもつスーパーコンピュータ(SHIROKANE)設置されています。

東京大学医科学研究所のHP
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/index.html

最初に述べましたが、あまりにも規模拡大した現在の医科学研究所全体に伝統が受け継がれているかどうかは分かりません。しかし少なくとも、感染・免疫部門(ワクチン科学分野)には河岡教授の実績が受け継がれそれを基礎にして新しい考え方のワクチン開発が進むものと考えております。

次に注目の、感染・免疫部門の研究テーマについて付記します。

東京大学医科学研究所、感染・免疫部門(ワクチン科学分野)石井 健 研究室
研究tテーマの説明(研究所HPより)
「新規ワクチン技術、アジュバントの開発」 アジュバントは強い自然免疫賦活化物質であることが多く、使いようによって毒にも薬にもなりえます。即ちアジュバントの有益な作用を最大限引き出し、有害な副作用をミニマムに抑えるための技術が必須となります。そこで我々はその特異性を上記のような自然免疫の受容体、シグナル伝達経路、エフェクター分子を介し高めるのはもちろん、DDS技術を用いて粘膜などの組織、細胞、細胞内ターゲッテイング能力を高めたアジュバントを開発しています。さらにこれらの研究成果を分子のレベルから生体のレベルに引き上げ、かつマウスから人のシステムに転換し、臨床の現場に還元するさせる作業を迅速に進めます。

最後に河岡義裕教授の「人類はウイルスとどう向き合うか」と云うメッセージをご紹介しておきます。

今まではウイルスを病原体としてとらえ、ヒトに有害な面ばかり言及してきました。しかし、ヒトに感染しても無害なウイルスも存在します。

風邪の原因となるアデノウイルスの一種でほとんど病原性のないウイルスが、子宮頸がんや乳がんのがん細胞を破壊したと云う報告があります。ウイルスには、細胞の持つ特定のレセプターに結合する性質があります。ウイルスの中には、がん細胞に特有のレセプターが存在し、感染したがん細胞を破壊すると推測されるのです。

また、病原性ウイルスを攻撃する変わったウイルスも研究されています。CBウイルスC(CVB-C)に感染しているエイズ患者では、症状の進行が抑えられていると云う報告があります。
このウイルスは、肝炎ウイルスの一種とされていますが、肝炎を発症させることはなく、エイズHIVの増殖を抑えていると推測されます。

ウイルスはまだ謎ばかりです。ウイルスが遺伝子の運び屋として、生物の進化に大きく関わっているのではないかとも言われています。ウイルスの役割は想像以上に広いのかもしれません。ウイルスを撲滅しようとするのではなく、人類がウイルスを利用して、より良い社会を築くという試みも行われています。


河岡義裕教授のこのような柔軟な考えが東京大学医科学研究所、感染・免疫部門(ワクチン科学分野)石井 健 研究室にも受け継がれ、新しい考え方のワクチンが開発される事を期待します。
もちろん、ADE(Antiboy Dependent Enhacemeennt)の弊害を克服した技術でなければなりません。このグループは他に先がけて成功する可能性があると確信します。河岡義裕教授の慎重さを念頭ににおきながら—。

注)Antiboy Dependent Enhacemeenntとは、「 抗体依存性感染増強」で、抗ウイルス抗体の存在によりウイルス感染が増強される現象

本当の科学とは一時の流行のようなものではないのです。河岡義裕教授の技術は1990年代から脈々と生きており、新型コロナウイルスの現在でも立派に通用しているのです。これが表に出ないのは先生の慎重さもあるが、アメリカでの長い研究生活から、感染症関連の技術はCIAマターであり、軽率に取り組めば研究者として命取りになる側面があるからです。そればかりでなく熾烈な特許競争の面からも慎重にならざるを得ないのでしょう。

この分野では慎重さとスピードと云う相反するものが求められています。世界的規模での競争と協力が求められるため、この分野の研究者は多様性に富み、人間的で頭の良い優秀な人材が多く育っているのです。河岡義裕教授はそのような人材をたくさん育てており、東京大学医科学研究所感染・免疫部門 ワクチン科学分野にもその人材が存在します。

この様な有能な科学者に負担をかけないよう周りから政治的圧力を排除するための協力が必要です。その為にはまず彼らの活動を知ることです。理解してはじめて応援できるのです。

参考)
金子勝(立教大学大学院特任教授)の最新動画 【金子勝の言いたい放題】都知事選総括!問うべきは何か 2020・07・08(河岡義裕教授の活動とは対照的かもしれませんが、この視点も両立させる必要性を感じます)
https://www.youtube.com/watch?v=HGE_ILpLQaA