角川書店\1100

この表題は本書の帶にあるキャッチコピーです。

著者はこう主張する、そもそも政治主導・官邸主導による官僚支配は本来なら当然のことだが、それが成立するためには前提条件がいる。それは政治が国民のために行われるということでだ、第二次安倍政権は、国民の利益ではなく、自分たちの利益(と言うよりは自分の利益)を自己目的化し、官僚機構をそのための道具として悪用した。そして、「モリカケ桜」問題のような明らかな犯罪的行為さえも官僚に忖度させ、嘘をつかせて、もみけしをはかった。
 このような私物化した「官僚支配」と「地に落ちた倫理観」こそが第二次安倍政権の特徴であり、サラリーマン化し、腐敗する権力を監視する役割を果していないマスコミをうまく利用する狡猾な「マスコミ支配」と、安倍氏のDNAに刻まれた「戦争のできる国づくり」がそれと合わさって、「安倍政権四つの負のレガシー」を形成したと云う。
 
コロナ禍という思いがけない事態の中で、この「能力の低いペテン師兼パーフォーマー」の安倍政権にとって代わって、安倍政権時代の官房長官であり、今井尚哉元総理秘書官兼総理補佐官らと共に安倍政権を裏で実質的に牛耳っていた「頑固で攻撃的、『改革する自分』に酔う裏方番頭」

安倍政権、菅政権の傘の下で己の欲と利益のために悪行三昧を繰り広げる悪党たちが、これでもかこれでもかと登場する。

◎ 安倍政権時代、「総理の影」と言われた今井尚哉元総理秘書官兼総理補佐官

◎ あの「コネクティングルーム」の和泉洋人総理補佐官

◎ モリカケ問題や日本学術会議の6人の任命拒否問題でも暗躍したコワモテ、杉田和博官房副長官

◎ 杉田氏の後を狙うインテリジェンスのプロ、北村滋国家安全保障局長

◎ 伊藤詩織さんから走って逃げた札付きの男、中村格警察庁次長

◎ 強姦事件で逮捕される直前だったのに、中村氏にもみ消してもらった元TBS記者山口敬之氏

◎ 集団的自衛権の行使の容認に道を開いた小松一郎元内閣法制局長官

 この本自体は300頁強の新書だが、一日かけて読んで、第二次安倍政権の成立からコロナ禍にゆれる今日までの十年間の日本政治のあり様、社会のあり様の変遷がよくわかった。

特に2013年の内閣法制局長官の交代と2014年の内閣人事局の設置で、当時の菅官房長官と杉田和博官房副長官が官僚の人事権を握って以降、日本の政治は右傾化し腐る一方に、そして日本という国の品性は失われる一方になってしまった。

 菅氏が安倍政権から継承したものは何か。『官僚支配』『マスコミ支配』『地に堕ちた倫理観』『戦争のできる国づくり』の四つだ。

平然と法律を破るようになってきた現政権に生活者として、身の危険を感じ始めてきたので。勉強と自衛の為に1日かけて読んだ次第だ。
この本は安倍・菅総理周辺の官僚で自身の元同僚たちの実名をあげて批判、現政権も発足当時はふわふわに見えたパンケーキも実は中身スカスカ、いまでは「干からびたパンケーキ」として力不足で思考停止していると指摘。結果としての斜陽日本の現状をあらためて紹介、著者なりの改革を提言している。

今起きているのは右や左といった思想話などではなく、国民より自分たちの利益や既得権利をなりふり構わずに守ろうとする官邸周辺、それを忖度して保身に走る単純な利益問題であるにもかかわらずコロナ禍対策については殆ど無力と云わざるを得ない。

コロナは政治の欠陥も見逃さないのか、デルタ株の感染の急拡大、自宅療養やトリアージ待ちが四万人を超し、医療破壊が起き、救急車の中で1時間も待たされ受け入れ先が見つからず、自宅に戻され翌日ついに死亡する悲しい事態が現実になっている。

 今年(令和3年)は、自民党総裁選、そして総選挙がある。このままでいけば、とりあえず総裁選で菅さんが再選されたとしても、総選挙では有権者の厳しい審判が下るはずだ。自民党はある程度議席を減らすだろう。
 この意味では、今年は日本は大きな転換期を迎えるだろう。古賀氏の抱く危機感は、まさに「今そこにある危機」と言っていいだろう。


追記

横浜市長選挙の結果は山中竹春氏の圧勝で終わりました。小此木八郎氏は菅さんが応援すればするほど票が伸び悩んだようです。
一部行われた落選運動も山中氏の票を削る効果は発揮しませんでした。

山中氏に対する逆宣伝は、「パワハラ疑惑」と「コロナの専門家は間違いだ」と云う二点でした。
パワハラ疑惑については先の投稿でお示ししたように指導教授は研究室の学生が学位をとれるように一生懸命指導するのが当たり前で、見込みがない学生が自ら去っていく事例は数多くみられることであること。

コロナの専門家でないと言う疑惑については、山中氏の学歴の中で早稲田大学の大学院の教育内容を見れば、現在の先端理工学部の医科学研究コースであること、医師の免許がない医学博士が存在する事実、山中氏は医学博士ではないが感染症の基礎を勉強する研究者がいてその実績が認められたからこそ横浜市大の医学部の教授になっているのです。米国国立衛生研究所の研究員の経歴、新型コロナに関する研究論文もあり、疑う余地はありません。

新型コロナウイルス、デルタ株の蔓延スピードは驚異的であり、今までの対策の遅れは誰が見てもはっきりしております。
最大の問題は自宅療養政策です、エアロゾル感染は家族全滅の悲劇を招いており、激変する症状に保健所が追い付かず受け入れ先が見つからず、救急医療が間に合わないまま、命を落とす事例が後を絶たちません。このままでは、今後ますます深刻な事態となるのは避けられません。

衆院解散時期を総裁選前に早める奇策も噂されておりますが、コロナ禍が深刻化し、硬くて食べられないパンケーキが立ちはだかる限りどうにもならないのではないかと考える次第です。

小林秀雄を語る

この本は文学者・小林秀雄をテーマとする形で中野剛志と適菜収が対談する内容です。
小林秀雄はここではリアリスト・(プラグマティスト?)と位置づけられております。

また「既成概念を使って安易に納得せず何が発生しているかよく見なければならない」そして「近代社会で論理的合理的に理性的にものごとを考えることに落とし穴がある」と主張しています。

世の中には言葉に表せないことが多く「個別のもの瑣末なことをきちんと見るべきだ。それにより抽象度をあげることによる危険性をふせげる」と言っているのです。

ところでこの表題はこじつけに見えるかもしれないが、この本に流れるリアリズムに影響された結果だとご理解いただいて差支えありません。

まずこの本の内容のご紹介から始めますと、何人かの学者や評論家の批判から始まります。
やり玉にあがったのは丸山真男です。彼こそリアリズムと真逆な理想主義者であり理論家で著者が最も嫌うタイプなのです。

次に藤井聡、武田邦夫、橋下徹、三浦瑠璃をあげております。コロナに対する発言の変節や陰謀論的体質を批判しております。状況の変化を素直に認めればよいものの、前言が状況に合わなくなっても言い訳にもならない決めつけや責任逃れの態度を臆面もなく続ける姿勢が気に入らないと云っております。

思想は個人のもの、運動は集団のものだから、「思想運動」などは邪道だと決めつけております。私にはこれは左翼批判だと受け取りました。

私は以上の主張に全面 的に賛同するものではないが、新型コロナウイルスに関する記述には、なるほどと頷けるものが多々ありました。



横浜市長選はいよいよ22日に迫ってまいりました。ここでこれに関しこの本から得られた「些細な事の重要性」に気づかされる面がありましたので付記しておきます。

選挙戦終盤になっていよいよ菅氏の推す小此木八郎氏と野党連合の推す山中竹春氏の対決がクローズアップされてきました。

ここに突如として現れたのが郷原氏です。郷原氏は元検事でリベラルの旗手と謳われた人です。はじめは自ら立候補の意思でしたが、今は立候補せず落選運動に徹する立場を表明しております。

当然その対象は小此木氏と山中氏だと云われます。ところが最近の動きを見ますと小此木氏に対する発言より山中氏に対する批判が圧倒的に強くなっております。有名なユウチュウバーのサイトにも登場し山中氏に対する攻撃を徹底的に繰り広げております。

善意に考えれば郷原氏は自己の理想とする正義感に基ずく行動のように見られますが、私は「思想の免疫力」を読んで、「思想は汚染されたイデオロギーに堕する」「思想は個人のもの運動は集団のもの従って思想運動などは邪道」と云う主張が頭に浮かびました。

ところで郷原氏の主張が間違っているのではないか。正義感に基づくものでも何でもなく、細かい事実を見逃した完全な誤解であると理解しました。

そのことはこの本にも示唆的なことが書いてありました。

大学の指導教授は自分の研究室から学位をとれる人材を発掘するのに懸命なのです。
優れた学問の師匠は弟子を甘やかすことなく厳しい指導をするけど怒鳴り散らしたりはしない。逆に思想運動の指導者はハラスメントによって徒党をまとめあげる。

このくだりは重要です大学の指導教授が学位をとる人材を育てる事を目的にすればするほどハラスメントで無くても、学生は見込みがないと 思えば自ら去っていくケースが多々見受けられるのです。

これが誤解を解く鍵ではないかと私は思います。



次回は古賀茂明氏の著書「官邸の暴走」をとり上げて書評を書くつもりです。
著者は経産省出身で政権内部にいた存在です。このため政権内部の細かい事実を知っております。貴重な証言が得られるのではないかと期待しております。