6月10日に米政府が発表した5月分の消費者物価指数(CPIのインフレ率)は前年同月比8.6%の上昇、燃料や食料など広範な物価高によって、米国が予想以上の、40年ぶりの激しいインフレになっていることがわかった。インフレ対策として、米連銀(FRB)が6月14-15日の政策会議FOMCで0.5〜0.75の大きな利上げを実施する可能性が強まり、長期金利上昇し、金利高を嫌気して株価が急落した。

バイデン大統領は6月9日には、インフレを船会社の原因と説明していた。太平洋航路で貨物船を運行する9つの船会社の中には、船賃を10倍に値上げしたところもあり、インフレはこの値上げのせいだとバイデン大統領は米国民に向かって述べた。昨年から高騰が発生し、米国と中国の港湾の積み下ろし作業が滞り、沖合の滞船やコンテナ不足などで運賃が高騰した。

翌日の10日には「プーチン・インフレ」と称し、一方的にロシアのウクライナ侵攻のせいとも説明した。

責任逃れも甚だしく、コロナ対策以来、資産を買い入れ、市中に大量の資金を供給する量的金融緩和(QE) が続いた。インフレ抑制のためFRBは5月に長期金利0.5%の大幅利上げ(QT)を決定した。この経過を無視した大統領の発言に野党共和党が反発したのはもちろんニューヨークなどで反インフレのデモが散発した。

コモディティの国際相場は、信用取引によって金融的に引き下げられてきた面があり、その大きな資金源は米連銀のQE(通貨の過剰発行で相場をつり上げる策)だったが、米連銀はすでにQEをやめてQT(資産圧縮)を開始している。今後はコモディティ相場の引き下げ効果が薄くなって高騰する傾向が増す。石油価格は今の120ドルから140ドルへと上がっていくと予測されている。金相場もいずれ抑止力が薄まって高騰する可能性が高い。

日本は日銀が大幅な金融緩和を続けており、金利差拡大を意識した円売りの動きが目立っている。9日の東京外国為替市場の円相場はドルに対して一時1ドル134.円台まで下落した。2002年2月以来、約20年4ヶ月ぶりの円安水準だ。15日現在更に下落し135円後半をつけた。

日銀・黒田総裁はこの期に及んで今後もQEを続けると表明しているが、正直なところ、それより方法がなく金融政策の幅がほとんど無くなってきていることを暴露したものと受け取られている。

欧州ではウクライナの影響から資源や食料の価格が高騰している。ユーロ圏19カ国の5月の消費者物価指数は前年同月から8.1%上昇し過去最高水準を記録。欧州中央銀行(ECB)は5月に0.25%の大幅利上げを決定。英イングランド銀行(BOE)も段階的に利上げを進めており、ECBもこれに続く。インフレ率は各国バラバラだが7.5%〜12%となりハイパーインフレ・スタグフレーションの様相を呈している。


希望的観測と “yattafuri" が破滅を招く!

危機管理の鉄則は「最悪を想定して予防対策をたてる」ということだ。
ウクライナ危機に関する希望的観測は「プーチンが病気だ」「ロシアは負けており内部から反戦の機運が盛り上がっている」「対露制裁が効果をあげロシア経済は破綻している」等々。

CNNの報道をそのまま垂れ流す日本のメディアが執拗に繰り返すこれらの報道は事実に反し、この主張に沿った専門家やコメンテーターを重用することで一般の市民には「プーチン悪、ゼレンスキー善」の印象が頭にこびりついている。

しかし専門家やコメンテーターに云いたい。「あなた達の発言はすべて希望的観測で、そんな観測は聞きたくない、事実を語っていただきたい」と。


以下、最近の世界の動向を紹介する。

ニューヨーク・タイムスの社説(ニューヨークの知識人に読まれている新聞)
2022年の4月から論調に変化が見られた。従来ロシア制裁一辺倒だったのが次のように激変した。4月の社説は国連195カ国の内ロシア制裁参加国に加盟した国は、わずか30数カ国だったことを報道し、明確に参加表明した国が激減したことを告げている。

更に制裁の効力についてもルーブルの価値が制裁前に戻り、ロシアの石油・ガスのルーブル払いの要求に屈する国が多くなっていることを指摘している。

4月にはロシアが案外負けていないことを指摘する一方、5月に入るとバイデン氏の思惑外れをあからさまに指摘する社説が現れた。

5月21日のイギリス.エコノミスト紙

2022年後半には最悪の食糧危機が始まるとし、理由はパンデミック・気象変動・エネルギー危機ばかりでなく、ウクライナの食料輸出はほとんど止まり、ロシアの食料輸出も滞っていること。ロシア・ウクライナで世界の小麦の29%を占め、肥料に至っては、カリュウムがロシア産が世界の20%を占め肥料全体ではロシアが大半を占めていることを報じている。

折も折、グテーレス国連事務局長はこのままウクライナの戦争が長引けば世界の16億人が飢餓に瀕するとの声明を発表した。世界の人口79億5400万人の20%が飢餓に見舞われると言うのは大変なことだ。

日本国内でも今までウクライナ侵攻に無関心だったエコノミストが過去8年間のウクライナ内戦の歴史を語り、このまま放置すれば世界的金融危機が避けられないことを指摘し始めた。(MoneyVoice高島康司氏、認定NPO日本再生プログラム推進フォーラム 藤原直哉氏など)

CNNの一方的報道を垂れ流す日本メディアに対し反対の意見表明をすれば、直ちに「陰謀論」のレッテルを貼られ抑圧されていた言論が、無関係だった言論人から表面化されるに及び、戦争の長期化を是認する傾向が薄れ、即時停戦を望む声が大きくなってきている。


ゼレンスキー大統領も武器援助ばかり求めるのでなく自国の国民の事を真剣に考えるのであれば停戦に向かって最大の努力を傾けるべきではないだろうか。

世界銀行(IMF)は10日、欧州や中央アジアの新興国経済の成長率見通しを発表した。それによれば、ロシアの軍事侵攻を受けたウクライナは2022年の実質成長率がマイナス45.1%と予測されている。

加えて700万人に及ぶ国内外の難民を抱え、もはや戦後復興は絶望的な状況だ。大統領は国民のことを考えるなら一日も早く停戦交渉の席につくべきだ。