「新型コロナワクチンとウイルス変異株」と云う本を見つけました。遺伝学者の著作と云うことで、ネット上では、根拠のないフェイクニュースが溢れる中で、きちんと裏付けのある資料を元にしての"新型コロナワクチン"そして"新型コロナウイルス"に関する説明に触れることができ、新しい知識が得られ、まさにこの時期だからこそ読みたい内容でした。

研究者の視点で、一般人には多少難解な部分もありますが、平易な語り口で、頭にスッと入ってきました。不安が解消され、これからどうなるかが多少なりとも明らかになったことが何よりの収穫でした。自己防衛には必須の情報がたくさん盛りこまれています。

新型コロナ、ウイルス変異、現在のワクチン、ユニバーサルワクチン、治療薬、パンデミックの終息などの道がみえる、わかりやすい本です。
以下、大事な情報のみをピックアップします。(このまとめは書評の一部に掲載されたまとめからの転載です)

1.メッセンジャーRNAとは何か。

mRNA(メッセンジャーRNA)を取り込み、体内の細胞のなかで病原体のたんぱく質をつくらせ、免疫機能を活性化させる仕組みだ。
mRNAの開発はに20-30年かかっている。実用化の最後の段階で新型コロナが来襲したため、臨床試験の最終試験期間を短縮し、生産体制を同時にすすめて2020年の摂取に間に合わせた。
mRNAはタンパク質になるDNA情報だけを転写し、運搬し、特定のアミノ酸をつくる。(DNA自体の操作ではないから遺伝子組み換えではない)
抗体は可変領域と定常領域が組み合わさって多様性が確保されている。このDNAの再構成のメカニズムを発見したのが利根川進、定常領域のわずかな変化のメカニズムを解明したのが本庶佑だ。

2.新型コロナの実体。

免疫機能が薄れないように、抗体が怠けないように、2回摂取する。抗体が緊張するので副作用が強くなることがある。
人口の50%が免疫を持てば集団免疫となり、壁ができて、感染者は劇的に減る。
感染経路の最多は「飛沫」。通気性の良い環境が不可欠。季節変動にはあまり関係はない。重症化率は50代が境目。
中国武漢の研究所で飼われていたコウモリから感染し広がった可能性あり。

3.今後の展望。

ウイルス同士の競争、ウイルスとワクチン開発による人間との激しい生存競争。
新型コロナウイルスの1年間の変異は25回程度。エイズよりは少ないが、人間のゲノムの変異よりも10万倍以上の速い変異。ワクチンの効果は3-5年しかもたない。毎年打つ必要はないが、数年から5年でワクチン接種が必要か。
変異対応のユニバーサルワクチン(ゲノム解読し、変異の場所や組み合わせを想定し、仕立てていくワクチン)は原理的には可能だ。
日本では「統合データベースの構築と解析プロジェクト」が始動。(8月22日の日経新聞1面に記事が載っていた)
ゲノム解析とゲノムレベルで突然変異をリアルタイムでモニタリングを可能とする「バイオインフォマティックス」(生命情報学)のグローバルネットワークの構築が急務。(気象予報のように予測できるようになる)
今後はユニバ―サルワクチンの開発、その後は増殖阻害剤(治療薬)の研究開発へ焦点が移っていく。
東南アジア、アフリカ諸国での感染対策が成功しないかぎり、このパンデミックは終息しない。


以上の内容で私が一番重視したのは「今後の展望」です。変異株の将来がどうなるかについては、強い関心を持たざるを得ません。
「人間のゲノムの変異よりも10万倍以上の速い変異。ワクチンの効果は3-5年しかもたない。毎年打つ必要はないが、数年から5年でワクチン接種が必要か」と云う部分に特に注目しました。

最近のニューヨークからの情報によれば「接種後感染次々-米困った」の見出しが気かかりです。米国で新型コロナウイルスワクチン接種後に陽性になる「ブレークスルー感染」が社会活動の正常化にブレーキをかけています。ブロードウエーでの大規模ブレークスルー感染、ボストン郊外のハーバート大学学生の感染急増、同大学では学生や教職員の95%がワクチン接種完了しております。

このブレークスルー感染は人間のゲノムの変異よりも10万倍以上の速い変異に起因するものと思われます。人間のゲノム変異は長い時間をかけて種の多様化をもたらすものです。人間のゲノムがすべてクローンであれば多様性を維持できず、また環境に適応できず絶滅してしまうのです。それに比べてコロナウイルスの変異の速さはコロナウイルスが独自の細胞を持たず動物の細胞に寄生してしか増殖できない性質を反映しているものと思われます。

この本では変異種と変異株をはっきり分けて考えております。変異種は交配によって子孫を増やし、変異株は自らの力では増殖できないので変異のスピードを上げざるを得ません。これが自然の法則と云えるのでしょう。

厄介なことに、デルタ株は「二重変異株」と云われ、スパイクタンパク質のE484QとL452Rの2つの変異が重なっているためワクチンの有効性が低下すると記されています。

それでは、いかなる変異に対しても対応できるワクチン(ユニバーサルワクチンと称する)は出来るのかと云う疑問が生まれます。理論的には可能だと筆者は説明しております。ただしそのためにはmRNAワクチンであってもゲノムをすべて解読する必要があると云われます。

そのうえで将来の変異を予測するには、変異の場所や組み合わせを調べるための膨大なゲノム情報のデーターベースを構築することが必要となります。ワクチンの接種率を飛躍的にあげる努力は集団免疫獲得の為ばかりでなく、膨大なゲノム情報のデーターベースを構築するためにも必要だと書かれております。

現在世界で一番使われているゲノム情報データーベースは、ドイツの「GISAID」と云うデーターベースです。著者のグループはこのデーターベースの使用契約を結び、毎晩ダウンロードして計算した結果を「変異追跡システム」に反映して限定的ではあるがある程度の予測ができる段階までたどり着いております。

日本では、国立医療研究センターと国立感染症が共同でREBINDと云うデーターベースの構築を進めております。
また、WHOは世界規模のデーターベースを作るためにも役立つ、発展途上国も含めた調査資料を集めているのです。

このように、ユニバーサルワクチンに至る道筋はまだまだ先の話となりますが、道は開かれつつあります。従って当面は予防薬(ウイルス増殖阻止剤)の開発に頼るしかありません。対症療法的治療薬でなく、特効的に有効な増殖阻止剤の開発の成功は新型コロナウイルスの制圧にとって、今後のカギになってくるでしょう。

以上述べた課題は関係する専門分野が多岐にわたるため、限られた専門家の研究だけでは突破できないのです。深く広い知識が求められ、目的を絞ったうえでなければ議論がばらけてしまいます。コロナ対策を個人の自己防衛に限定した場合、目的意識さえしっかり持てば役に立つ情報は十分得られるのではないかと云うのがこの投稿の結論です。

ところでこの冬の第6波が気になりますよねー。今感染が減っているのは季節要因なのか自壊なのかが問題です。この本を読んだ結果私は自壊だと確心したのです。なぜかと云えば感染力の強い株はコピーミスのチャンスも大きいのです。コピーミスは弱毒化にもなり、反面より強力な新株を生む可能性もあるのです。

弱毒化は新株を生むプロセスよりスピードが速いことは容易に想像できます。感染力が強いほどコピーミスも激しいと考えれば、第6波についてその時期と規模の予測がつくでしょう。

モリヌピラビル、AT527、3CLブリピアーゼ等、複製阻害治療薬が出てきていることも今後の新型コロナウイルスの行く末を占う重要な要件です。でもこれは第6波の後の話です。

 

 

2021-09-28

「検査して陽性者を見つけこれを隔離する」ことが世界の常識となっていることを無視して政策を歪める「感染症村」の悪弊を絶たない限り、いくら総裁選候補が「改革」を語っても絵にかいた餅でしかない。
これは正論であることを否定できない。しかしこのような主張をする人にありがちな誤解があることを指摘しておきたい。つまり検査の方法についての議論に誤りがあるのだ。

PCR検査がベストであり、「抗原検査は精度が悪く50%くらい誤判定がある」と云う主張だ。これが誤りであることは下記の2020年5月厚労省発表の下記資料を見ればわかるはずだ。

ポイントは、抗原検査には抗原定性検査と抗原定量検査があること、以下の文と図表を見れば理解出来るだろう。富士レビオ株式会社から発売され、承認され保険適用となった抗原定量検査キットがそれだ。

念のため抗原定性検査と抗原定量検査の違いについてわかりやすい説明を加える。

定性検査は抗原が閾値以上存在するかしないかだけしかわからないのに対し、定量検査では抗原が存在する量までわかるのだ。精度の違いは明らかだろう。

検出精度がPCR検査にくらべて極端に悪いのは抗原定性検査であり、これを混同している点がいかにも残念だ。折角「検査して陽性者を見つけこれを隔離する」と云う適切な指摘をしているにも拘らず、認識不足で信頼を落としている。

但し抗原定性検査もPCR検査も、定性検査のタイミングをうまく捉えないと最高の検査結果が得られないのだ。検査結果の経時変化、CT値などを適切に捉える為に数日をおいて繰り返し検査を行っている。


以下厚労省の発表を紹介する。

<抗原定量検査>
 ・6月19日には、富士レビオ株式会社から新たな新型コロナウイルス抗原検出用キットである「ルミパルスSARS-CoV-2Ag」の薬事承認が得られ、6月25日から保険適用となりました。当該製品は、専用の測定機器を用いることにより、従来の抗原検出用キット(抗原定性検査)よりも感度が高く、抗原の定量的な測定が可能であることから、PCR検査と同様に、鼻咽頭ぬぐい液による検査は有症状者、無症状者問わず確定診断に用いることが可能です。
・また、唾液による検査は、当初、症状発症から9日以内の者については可能とされていましたが、7月17日より、PCR検査と同様、無症状の方に対しても、唾液を用いた検査を活用できることとなりました。

無症状者の唾液を用いたPCR検査等について(7月17日掲載)

  PCR検査との違いをご覧ください。

検査種類 抗原定性検査 抗原定量検査 PCR検査
  調べるもの ウイルスを特徴づけるたんぱく質   ウイルスを特徴づけるたんぱく質(抗原) ウイルスを特徴づける遺伝子配列
  精度 検出には、一定量以上のウイルス量が必要 抗原定性検査より少ない量のウイルスを検出できる 抗原定性検査より少ない量のウイルスを検出できる
  検査実施場所 検体採取場所で実施 検体を検査機関に搬送して実施 検体を検査機関に搬送して実施
  判定時間 約30分 約30分+検査機関への搬送時間 数時間+検査機関への搬送時間

新型コロナについては発表されるデーターや情報が時々刻々変化するので、何時のものか、どこのものか、何に関するものかなどを厳密に調べたうえで、そう云う条件も含めた発表をしないと時にはフェークニュースとなってしまうので注意が必要だ。

例えば変異種についてもアルファ株なのかデルタ株なのかラムダ株なのか、どの株についてのデーターなのか特定しないとその対策が3蜜でよいのかエアロゾル感染や空気伝染を警戒するべきかなど重要な対策手段が変わってくる。

更にワクチンの効果や副反応についても、そのワクチンはmRNAワクチン かウイルスベクターワクチンか不活化ワクチンか、更に製造元はファイザーかモデルナか、アストロゼネカかシノバクかなど、特定したうえで論じないと、話がすれ違ってしまう。

根拠となる論文はどこの科学雑誌に出ていたものかその論文は査読を経ているのか、海外情報であればニューヨークタイムスかワシントンポストかCDCかWHOかジョンズホプピンズ大かなど情報源をできる範囲で明らかにすることが必要だ。

以上いかにも細かいことだが、新型コロナウイルスは進行中であり、動く標的を走る馬から射るような難しさがあることを指摘したかったのだ。

追記:

現在、依然として古い抗原定性検査キットが使われています。これは在庫処分の疑い濃厚です。ご注意ください。

尚、英国製薬大手グラクソン・スミスクラインなど(米ビア・バイオテクノとの共同開発)が開発した新型コロナウイルス感染症の新しい治療薬「ソトロビマブ」が特別承認されたと発表されました。一液性で扱いやすく、また試験管内の実験では、デルタ株など変異株への効果も確認できたとされております。重症化リスクの高い軽症者が対象となっていることなど含めこの冬の第6波の景色が変わる可能性もあるかもしれません。このように技術は日進月歩で目が離せません。