Ct値:陽性率の不毛な議論よりスーパースプレッダーの特定を!

 

 今回の新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに突如感染症の検査として登場したPCR検査ですが、これまで臨床の現場で診断に使用された事はありません。PCR検査は唾液や鼻腔や口腔内に存在するウィルス遺伝子断片の特定部位を取り出して、それを倍々に増幅(サイクル数と呼ぶ)してサイクル数からウィルス量を推定する検査です。このサイクル数をCt値と呼びます。

 Ct値には国際基準も存在しません。ですから各国基準値が異なります。日本より基準が低い国でPCR陰性だった人が、来日して陽性と判断されても当たり前な事なのです。日本ではCt値が40で陽性としていますが、台湾では35中国では37~40米国では40前後で運用されているようです。

5月4日のTBS「報道1930」で東京大学先端科学名誉教授・児玉龍彦氏が出演しスーパースプレッダーを早期に発見して感染対策と重症化対策を徹底することが変異種に対処する要諦だと述べておられます。このためにCt値を活用すること、精度の良い検査機を利用し、西欧では常識化されている精密医療を進めなければならない。ノイズをひろいにくい抗体検査と組み合わせることも重要だとも云っておられます。

以上の理解を深めるため云っておきますが、Ct値の35以下のウィルス量の少ない陽性者とスーパースプレッダーのウイルス量を比べると少なくとも1万倍の差があるのです。感染者の爆発的蔓延を防ぐと同時にスーパースプレッダー自身の重症化を早期発見により防護することがスーパースプレッダー自身を護り、変異種の猛威から逃れる重要な対策となり医療崩壊を防ぐ手段となるのです。

極端に表現すれば、スーパースプレダーの存在はその環境においては、エアロゾルまたは空気伝染があるとみて対処する必要があると云っても過言ではないということです。


参考までにいかに不毛な議論が繰り返されていたかを明らかにするため下記の通りマスコミの情報の一部をご紹介しておきます。


日経新聞2020年11月8日
新型コロナウイルスを巡り、PCR検査で「陽性」「陰性」を判断する基準値に注目が集まっている。基準値に国際標準はなく、実は日本の陽性者が別の国では陰性と判断される可能性もある。基準値をどう設定するかは海外でも議論になっている。

PCR検査は検体の温度の上げ下げを繰り返すことで、ウイルスの中にあるRNAを増幅し、感染の有無を判断する。わずかな量でもウイルスを検出できれば、感染を確認できる。ウイルスが存在しないか、極めて少なければ「陰性」と判断される。陽性と判断する基準値には、増幅に必要なサイクル数(CT値)を使う。基準を高く設定するとウイルス量が少なくても陽性と判断される。

国立感染症研究所の新型コロナの検査マニュアルでは、原則この値が40以内でウイルス(注:実はその殆どがウイルスの死骸→後述)が検出されれば陽性と定めている。一方、台湾では35未満に設定しているとされる。日本で陽性となった人が台湾では陰性となる可能性がある。中国は中国疾病対策予防センター(中国CDC)によって37未満を陽性と判断するが、37~40の場合は再検査などを推奨している。日本でも一部検査機関では40に近いと再検査する機関もあるが、国の指針などはない。国際的にも40程度に設定している国が多いとみられる。基準値が問題になるのは、この値を高めに設定すると、ウイルス量がごく微量で、他人に感染させる恐れがない人まで陽性と判断してしまう恐れがあるためだ。入院や治療が不要な人まで陽性とされる懸念がある。

英オックスフォード大学の研究チームはPCR検査が死んだウイルスの残骸を検出している可能性があると報告(*2)。英国の別の研究では、CT値が25より小さい陽性者の85%以上は他人に感染力があるウイルスが培養できたが、35を超えると8.3%しか培養できなかったとの結果もある(*3)。米ニューヨーク・タイムズの報道では、米国でも基準値は40前後に設定されているが、一部の専門家から「30~35程度が適正だ」との声も上がっているという。(後略)


朝日新聞デジタル
 
新型コロナウイルスで注目されている陽性率は、全国的に統一された計算法が存在しない。感染の有無を調べるPCR検査を受けた人に占める陽性者の割合だが、地域によって民間による検査件数を含めなかったり、同じ人が複数回検査した際の扱いが違ったりしている。政府の専門家会議も問題視。統一を求める声があがっている。

 陽性率は感染状況を把握する上での重要な指標と位置付けられているが、計算法に違いがある。主に①民間病院などによる検査を集計に含むかどうか②退院時の陰性確認検査などを含むかどうか――の2点だ。
 今も緊急事態宣言の対象となっている北海道と首都圏の4都県、21日に解除された近畿3府県でも対応はバラツキがある。

 東京都は当初、行政が行う検査だけを集計。民間病院などによる検査は把握していなかった。そのため陽性率も公表してこなかったが、民間分も含めて集計するように改め、今月8日に初めて陽性率を発表した。退院時の陰性検査を除き、16~22日は1・3%だった。

 神奈川、兵庫の両県は現在も民間分を集計していない。千葉県は民間の検査機関から提供してもらったデータに陰性検査が含まれているため、いまは民間分を集計対象外としている。陰性検査を除いて集計に加える方向で準備をしているという。

 大阪府と京都府は、民間検査を含めている。埼玉県は当初、ほかの自治体と異なり、県が運営する保健所13カ所分と民間分だけを集計していたが、今月15日から政令指定市と中核市が運営する保健所4カ所分も加え、県内全体の陽性率を出している。
 北海道では、いまのところ民間の検査はしていないという。8都道府県はいずれも、退院時の陰性検査は含めていないが、厚生労働省によると、陰性検査などを陽性率に含めている県はほかに20近くあるという。

 統一された基準はないが、政府の専門家会議の尾身茂副座長は「行政による検査だけだと分母が少なくなり、民間の検査も加われば分母は正確になる。入院患者は(陰性検査を含めて)何回も検査するため、ダブルカウントすれば分母が過大になってしまう」と指摘。①は全体像を把握するために集計に含めるべきで、②は陽性率とは関係ないため含めるべきではないとの立場だ。

 計算の仕方によって、どれぐらいの誤差があるか公表されていないが、地域によって差があり、厚労省は国内の正確な陽性率を把握しきれていない。政府の専門家会議は14日、新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言で「都道府県の状況を比較できるようにすることが重要」と問題提起した。